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福岡地方裁判所小倉支部 昭和38年(ワ)111号 判決

原告 宮本重雄 外七名

被告 合同タクシー株式会社

主文

一、被告は原告宮本重雄に対し金二八三、五八四円、同大津忠敏に対し金二九三、八四九円、同高橋義教に対し金二九七、五四〇円、同社寿に対し金二七四、七九九円、同三宅俊雄に対し金二九四、九九八円、同曽根隆に対し金一八六、二〇八円、同森崎賀来雄に対し金一三七、一九九円、同池田一雄に対し金一六一、二八一円を各支払え。

二、原告高橋義教、同森崎賀来雄を除く原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

四、この判決は原告宮本重雄、同大津忠敏、同高橋義教、同社寿、同三宅俊雄においていずれも金八〇、〇〇〇円、同曽根隆、同池田一雄においていずれも金五〇、〇〇〇円、同森崎賀来雄において金四〇、〇〇〇円の担保を供するときは、原告らにおいてそれぞれ仮に執行することができる。

事実

(当事者の求める裁判)

一、原告らの申立

(一)  被告は原告宮本重雄、同大津忠敏、同高橋義教、同社寿、同三宅俊雄に対し各金二九七、五四〇円、同曽根隆に対し金一九三、四〇一円、同森崎賀来雄に対し金一三七、一九九円、同池田一雄に対し金二三六、三七九円をそれぞれ支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言

二、被告の申立

(一)  原告らの請求をいずれも棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決

(請求の原因)

一、被告は肩書地に本店を、北九州市小倉区片野新南町三五八番地および同区城野富士見町一番地に営業所を有しタクシー業を営んでいる株式会社である。

二、原告らはいずれも被告会社に雇傭され、右富士見町一番地の営業所に自動車運転手として勤務していた者である。

三、しかして、原告らは別表(一)「勤務年月」欄記載の期間、同表「勤務時間数(日数)」欄記載の時間(日数)労働したものであるがそのうち同表「時間外労働時間数」欄記載のとおりの時間、労働基準法(以下労基法という)第三二条所定の労働時間を超えて労働せしめられ、かつ同表「深夜労働時間数」欄記載のとおりの時間、同法第三七条第一項に規定する深夜である午後一〇時から午前五時までの間に労働せしめられた(ただし、計算上の便宜のため、別表(一)の「時間外労働時間数」欄には労基法第三二条所定の労働時間を超えて労働した時間で深夜労働に含まれない間の労働時間数を、同表「深夜労働時間数」欄には右所定労働時間を超えて労働し、かつそれが深夜労働に当る場合の間の労働時間数を表示した)。

したがつて、原告らは被告会社に対し労基法第三七条、同法施行規則第一九条、第二〇条により後記四、の算定根拠に基き算出した別表(一)「時間外労働賃金額」欄記載の金額と同表「深夜労働賃金額」欄記載の金額とを合計した同表「割増賃金合計額」欄記載の割増賃金の支払請求権を有するものであるところ、被告会社はこれが支払いをしないので、請求の趣旨記載の各金員の支払いを求めて、本訴に及んだ。

四、別表(一)記載の各金額の算定根拠は次のとおりである。

(一)  原告ら所属の労働組合と被告会社との間には、別表(一)「勤務年月」欄記載の期間、賃金に関する協定は存しなかつた。

(二)  原告らと被告会社との雇傭契約に際し、原告らの労働時間は一日二四時間、隔日勤務とする、一日の勤務時間は通常の労働時間に引続き時間外労働、深夜労働をなし合計二四時間勤務するものとする旨約した。

(三)  そして、一カ月当りの所定労働時間数は、別表(一)「一ケ月当り所定労働時間数」欄記載のとおり八時間に原告らの出勤すべき日数一三を乗じた一〇四時間となる。

原告らの出勤すべき日数が右一ケ月一三日であることは労基法第三五条から当然決定されるものである。けだし、原告らが一ケ月一五日勤務するとすれば休日が全くないことになるから、同条項にしたがい原告らに四週間を通じ四日以上の休日を与えるとすれば、少くとも二日を控除した一三日を出勤すべき日数としなければならないからである。

(四)  しかし、原告らが実際に勤務した時間はまちまちであつて、右時間は別表(一)「勤務時間数(日数)」欄記載のとおりである。

(五)  別表(一)「賃金月額」欄記載の金額のうち右側記載の金額は原告らと被告会社との雇傭契約において約した一ケ月当りの本給たる賃金であり、左側記載の金額は同じく雇傭契約で約した出来高払制によるいわゆる歩合給たる賃金である。

なお、右歩合給の金額は乙第一ないし第一一号証中、「所定時間外割増賃金」欄記載の金額によつて算出したものであるが、右金額が時間外割増賃金額を示すものではなく、歩合給の金額を示すものであることは、甲第一号証の一ないし九と対照すれば明らかである。

(六)  別表(一)「一時間当り基礎賃金額」欄記載の金額のうち右側記載の金額は本給に関するものであつて労基法施行規則第一九条第一項第四号により同表「賃金月額」欄記載の本給月額を同表「一カ月当り所定労働時間数」欄記載の時間数で除したものである。

(七)  別表(一)「一時間当り基礎賃金額」欄記載の金額のうち左側記載の金額は歩合給に関するものであつて、労基法施行規則第一九条第一項第六号により同表「賃金月額」欄記載の歩合給額を同表「勤務時間数」欄記載の時間数で除したものである。

(八)  別表(一)「時間外労働時間数」欄記載の時間数は、二四時間から一日の所定労働時間八時間および深夜労働時間七時間を控除しこれに一ケ月間の勤務日数である同表「勤務時間数(日数)」欄記載の日数を乗じたものである。

(九)  別表(一)「時間外労働賃金額」欄記載の金額のうち右側記載の金額は、本給に関する一時間当り基礎賃金額である同表「一時間当り基礎賃金額」欄記載の金額のうち右側記載の金額に一・二五および時間外労働時間数である同表「時間外労働時間数」欄記載の時間数を乗じたものである。

(一〇)  別表(一)「時間外労働賃金額」欄記載の金額のうち左側記載の金額は、歩合給に関する一時間当り基礎賃金額である同表「一時間当り基礎賃金額」欄記載の金額のうち左側記載の金額に〇・二五および時間外労働時間数である同表「時間外労働時間数」欄記載の時間数を乗じたものである。

(一一)  別表(一)「深夜労働時間数」欄記載の時間数は、一日の深夜労働時間七時間(午後一〇時から午前五時までの間)に一ケ月の勤務日数である同表「勤務時間数(日数)」欄記載の日数を乗じたものである。

(一二)  別表(一)「深夜労働賃金額」欄記載の金額のうち右側記載の金額は、本給に関する一時間当り基礎賃金額である同表「一時間当り基礎賃金額」欄記載の金額のうち右側記載の金額に一・五および深夜労働時間数である同表「深夜労働時間数」欄記載の時間数を乗じたものである。

(一三)  別表(一)「深夜労働賃金額」欄記載の金額のうち左側記載の金額は、歩合給に関する一時間当り基礎賃金額である同表「一時間当り基礎賃金額」欄記載の金額のうち左側記載の金額に〇・五および深夜労働時間数である同表「深夜労働時間数」欄記載の時間数を乗じたものである。

(請求原因に対する答弁)

一、請求原因第一、第二項は認める。

二、請求原因第三項のうち原告らが別表(一)「勤務年月」欄記載の期間同表「勤務時間数(日数)」欄記載の時間勤務したこと、原告らと被告会社との雇傭契約に際し、原告らの労働時間を一日二四時間、隔日勤務とする旨約したことは認めるが、その余の事実は否認する。原告らは一率に賃金本給月額金八、〇〇〇円とし、これを基準として時間外労働および深夜労働の割増賃金額の計算をしているけれども、原告らと被告会社との雇傭契約による定めは一日二四時間、隔日勤務、一ケ月一五日、時間数三六〇時間の労働の対価として賃金八、〇〇〇円を支払うものとし、一五日に増減あるときは一日八時間に対し金一七七円(8,000円×1/15×8/24=177円)の割合で賃金も増減するとの約であつた。しかして、原告らと被告会社との雇傭契約における約にしたがい別表(二)「勤務年月」欄(別表(一)に同じ)記載の期間、被告会社が原告らに対し支給した本給月額、歩合給月額ならびに皆勤手当は同表該当欄記載のとおりである。

三、請求原因第四項の算定根拠は争う。

(請求原因第三項に対する抗弁)

仮に原告ら主張のごとく原告らが時間外および深夜労働したものであつたとしても、原告らは被告会社に対し双方間の雇傭契約において予め右勤務に対する割増賃金請求権を放棄していたものである。更に、仮に右放棄が無効であるとしても、原告らは被告会社に対し毎月給与の支給を受けるに際しその都度右請求権を放棄していたものである。

すなわち、被告会社は原告らとの雇傭契約に際し、時間外および深夜の割増賃金を精算支給することに代えて歩合給および皆勤手当名義で支給する金員をもつて割増賃金の支給をする旨約していたものであるから、仮に精算した場合右支給額が精算額に満たなかつたとしても、右満たない部分については予め放棄していたものというべきであり、仮に予めの放棄が許されないとしても、少くとも賃金受領の都度異議なく受領することによつて放棄したものというべきである。

(抗弁に対する答弁)

抗弁事実は否認する。雇傭契約の際、その契約において将来発生することのある割増賃金請求権その他労基法上の権利を予め放棄することは、同法第一三条に違反し無効である。

(証拠関係省略)

理由

第一、原告らと被告会社との間の労働契約について

一、原告らの勤務

原告らはいずれもタクシー事業を目的とする被告会社に雇傭され、被告会社の小倉区城野富士見町一番地の営業所に自動車運転手として勤務していたものであることは当事者間に争いがない。

二、労働契約の内容

成立に争いがない甲第一号証の一ないし九、証人山南勝己の証言(第一回)によりその成立を認めるにたる乙第一ないし第一一号証、証人福島幸雄、同浜田アイコ、同大坪浩祐、同山南勝己(第一、第二回)の各証言、原告宮本重雄、同大津忠敏、同高橋義教、同三宅俊雄、同社寿、同池田一雄の各本人尋問の結果を総合すると、次のような事実が認められる。

(一)  原告らと被告会社との間の労働契約に際し、労働条件につき次のような契約がなされた。すなわち、

(1) 原告らの労働時間は一日二四時間、隔日、一ケ月一五日間の勤務とする、

(2) 右労働時間、すなわち一ケ月三六〇時間勤務した場合、その対価として金八、〇〇〇円の賃金(以下本給という)を支払うものとする、ただし右(1)の勤務日数を超えて勤務した場合には、一日につき金三〇〇円の割合による金額を加算支給するものとする、

(3) 一ケ月の総水揚高の二割に相当する金額をいわゆる歩合給として本給と併せて支給するものとする(以下右賃金を歩合給という)、

(4) 一ケ月一五日間勤務したときは一ケ月金一、〇〇〇円の皆勤手当を支給するものとする、ただし一日でも一五日に満たない場合はこれを支給しないものとする、

という契約であつた(以下本件労働契約という)。

(二)  しかして、原告らは別表(一)「勤務年月」欄記載の期間、同表「勤務時間数(日数)」欄記載の日数、午前九時ないし一〇時から翌日の午前九時ないし一〇時までの間勤務し(右事実のうち一日の勤務の始期、終期の点を除き当事者間に争いがない)、被告会社から本給として別表(二)「本給月額」欄記載の金員の、歩合給として同表「歩合給月額」欄記載の金員の各支給を受けた。

(三)  なお、原告らと被告会社との間には、右(一)の認定の事項のほか、労基法第三六条の時間外および休日労働に関する協定等は存しなかつた。

右認定に反する乙第一ないし第一一号証の記載内容、証人浜田アイコ、同大坪浩祐、同山南勝己(第一、第二回)の各供述部分は前掲証拠に照したやすく信用することができないし、他に右認定を左右するにたる証拠はない。しかして、右(一)、(2)に認定の賃金が時間外、休日、ならびに深夜労働を考慮し、右労働に対する割増賃金を加味して定められたものであるとの点について被告会社は何ら主張、立証しないところである。

更に、原告らの勤務が一ケ月一五日に満たない場合について、被告会社は前記(請求原因に対する答弁)二、に述べるごとく一日八時間につき金一七七円の割合により本給を減額する約であつた旨主張するところであるが、右主張事実を認めるにたる証拠はない。もつとも、前記乙第一ないし第一一号証、証人山南勝己の証言(第一、第二回)によれば、右原告らの勤務が一ケ月一五日に満たない場合、金八、〇〇〇円を下廻る金額を支払われていたことは認められるが、右証拠によるも控除の基準額を確知することは困難である。

第二、原告らの割増賃金請求権の存否について

一、労基法第一三条との関係

労基法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約はその部分については無効とされ、この場合において無効となつた部分は同法の定める基準によるものであるところ(同法第一三条)、

(一)  前記第一、二、の規定によれば、原告らの勤務は一日二四時間隔日、一ケ月一五日間というのであるから、右勤務が労基法第三二条第一項所定の一日八時間の労働時間を超えていることは明らかであつて、本件労働契約のうち右超える部分の定めは無効と云わなければならない。

(二)  そして、被告会社が原告らに対し労基法第三五条所定の休日を与えていたか否かについて考えるに、被告会社は原告らに対し同条第二項により少くとも四週間を通じ四日の休日を与えなければならないところ、一日の休日とは通常暦日の午前〇時から午後一二時までを指すものと解せられるが、原告らの勤務のごとく一日二四時間の勤務の後である午前九時ないし一〇時から継続二四時間使用者の拘束から解放されているような場合には、暦日からは一日とは云えないけれども、労基法上は休日と解すべきである。そうすると、被告会社は原告らに対し少くとも四週間を通じ四日の休日を与えていることは明らかである。よつて、休日の点に関しては、本件労働契約は労基法第一三条に違反していないものというべきである。

(三)  右(一)で認定したとおり、本件労働契約は一日八時間を超える部分についての定めは無効であるところ、賃金八、〇〇〇円の部分については無効理由を認めえないから、有効に存続しているものというべきである。もつとも、このように解すると、本件労働契約のうち労働時間と賃金という相互に密接に結びついている労働条件について一方は無効、他方は有効という結果を招来しその余の労働条件との関係から契約全体のバランスがとれなくなる場合も出てくることが想定されるけれども、だからといつて有効である労働条件についてもその故に無効となるものとは解されない。そうすると、賃金八、〇〇〇円が、一日八時間労働であればそれに応じて減額されるとの約がなされていた等特段の事由がない限り、結局労基法により修正された原告らの労働条件は一ケ月一五日、一日八時間勤務、賃金八、〇〇〇円であると推定するほかはない。しかして、右特段の事由につき被告会社は(請求原因に対する答弁)二、において一日八時間に対し金一七七円の割合で増減するとの約であつた旨主張するけれども、右主張事実を認めえないことは前記第一、後段の説示のとおりである。

二、労基法第三七条の適用について

労基法第三七条第一項は、使用者が第三三条若しくは前条の規定によつて労働時間を延長し、若しくは休日に労働させた場合または午後一〇時から午前五時までの間において労働させた場合においては、その時間またはその労働については通常の労働時間または労働日の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない旨規定するところ、

(一)  労基法第三二条第二項所定のいわゆる変形八時間労働が被告会社において右規定のとおり正当に定められていたとするならば、原告らが一日八時間を超えて労働したとしてもそれは時間外労働とはならず、したがつてこの場合には被告会社は原告らに対し時間外労働に対する割増賃金を支払うことを要しないものと解せられるので、この点について考えるに、原告らの勤務は前記第一、二、(一)、(2)の認定のごとく一ケ月三六〇時間というのであるから、原告らの労働時間が、四週間を平均し一週間の労働時間が四八時間を超えないものであると云えないことは計算上明らかであり、本件労働契約につき変形八時間労働の定めがなされていたとは認められない。

(二)  ところで、前記労基法第三七条の規定によると、その文理解釈上前記第一、二、(三)、の認定のごとく同法第三六条の協定等の存しない本件労働契約の場合には被告会社に割増賃金の支払義務がないもののように解されるけれども、同法第三六条の協定等の存する適法な時間外労働等について割増賃金の支払義務がある以上、本件労働契約のごとく違法な時間外労働等の場合には、一層強い理由でその支払義務あるものと解すべきは時間外労働等を規制しようとする同法第三七条の趣旨からみてむしろ当然のことというべきであつて、同条項を協定等の存しない場合を除外する趣旨に解する理由はなく、同条項は右協定等の存しない場合についても時間外労働等に割増賃金の支払義務を認めた趣旨と解するを相当とする。

してみると、被告会社は原告らに対し労基法第三七条により時間外労働等に対する割増賃金の支払義務あるものと云わなければならない。

(三)  そこで、次に原告らの勤務体制に関連して労基法第三七条のいう時間外労働の意味について考えるに、原告らの一日の勤務は前記第一、二、(二)の認定のとおり午前九時ないし一〇時から翌日の午前九時ないし一〇時までの間であるところ、一日とは原則として午前〇時から午後一二時までの暦日を指すものであるから、右暦日にしたがえば、原告らの勤務のごとく中間に午前〇時を挾む二四時間勤務の場合は、二暦日に亘つておりその各暦日のうち八時間を超える労働が一日八時間を超えるものとして時間外労働となるもののごとくみえるけれども、労働時間の法的規制は労働時間の長さ、すなわち継続労働を問題としているわけであるから、原告らの勤務のごとく二暦日にまたがる場合であつてもこれを通算し、継続して八時間を超える労働時間は許されないものというべく、したがつて右八時間を超える労働はすべて時間外労働というべきである。

(四)  ところで、前記第一、二、(一)、(1)および同第一、二、(二)の認定によれば、原告らが本件労働契約で定められた労働時間(一ケ月一五日)を超えて労働している場合があるので、右超えた部分について割増賃金支払いの問題が生じるか否かについて考えるに、右超えてなされた労働は本件労働契約で定められた範囲外の労働であるから、特に右労働が被告会社の指示に基くものである等の事情があれば格別、そのような事情の認められない本件においては、右労働が時間外あるいは深夜になされたものであつても割増賃金支払いの問題は生じないものと解すべきである。

三、時間外労働時間数および深夜労働時間数

(一)  原告らの一日の勤務は前記第一、二、(二)の認定のとおり午前九時ないし一〇時から翌日の午前九時ないし一〇時までの間であるところ、そのうち八時間を超える労働はすべて時間外労働であることは前記第二、二、(三)の説示のとおりであるから、原告らの勤務のうち午後五時ないし六時から翌日の午前九時ないし一〇時までの間はすべて時間外労働、そして右のうち午後一〇時から翌日午前五時までの間は深夜労働でもあるということになる(この間の休憩時間等については、被告会社において何ら主張立証しない。)

(二)  時間外労働等の時間数算出の基礎とすべき勤務時間数について、原告らは(請求の原因)四、(三)において一ケ月一三日一日八時間として一〇四時間を右基礎とすべき旨主張するけれども、休日の点につき本件労働契約が労基法第三五条に違反していないことは前記第二、一、(二)の説示のとおりであるから、右主張は理由なきものと云わなければならない。してみると、右時間数については前記第一、二、(1)の認定および同第二、二、(三)、(四)の説示にしたがい一ケ月一五日で一日八時間、すなわち一ケ月一二〇時間とすべきである。

(三)  そうすると、原告らが別表(一)「勤務年月」欄記載の期間、同表「勤務時間数(日数)」欄記載の時間数(日数)勤務したことは前記第一、二、(二)のとおり当事者間に争いがないところ(別表(三)の右該当欄は右別表(一)の記載と同様である)右時間数のうち時間外労働時間は、右(一)の説示のとおり午後五時ないし六時から翌日の午前九時ないし一〇時までの間の一六時間に右勤務日数(ただし、原告らの実際の勤務が一五日を超えるとき右勤務日数を一五日に限るべきことは、前記第二、二、(四)の説示のとおりである。なお、原告らの勤務は別表(三)該当欄記載のとおりであるところ、その中には時間数が二四時間に勤務日数を乗じた数を超えている場合があるが、右超える部分については、それが時間外労働であるとの証拠はないから、時間外労働を算定するうえでの勤務の中にこれを含ませることはできない)を乗じた時間数となる。

そして、右「勤務時間数」欄記載の時間数のうち深夜労働時間数は右(一)説示の午後一〇時から翌日の午前五時までの間の七時間に右勤務日数(右時間外労働についての割註はこの場合にも当てはまる)を乗じた時間数となる。

右認定の時間外労働および深夜労働の各時間数は、別表(四)において計算の便宜上、時間外かつ深夜労働の時間数(7時間×勤務日数)を「深夜労働時間数」欄に、右以外の時間外労働時間数〔(16-7)時間×勤務日数〕を「時間外労働時間数」欄に各記載することによつて表示するとおりである。

四、割増賃金額

(一)  原告らの本給は前記第一、二、(一)、(2)の認定のとおりであるから、月によつて定められた賃金であると解すべく、したがつてその金額金八、〇〇〇円を所定労働時間数一二〇時間(一二〇時間とすべきことは前記第二、三、(二)の説示のとおりである)で除した金額に右第二、三、(三)の認定のとおりの時間外、深夜の労働時間数を乗じた計算額が労基法第三七条第一項のいう通常の労働時間の賃金額であり(同法施行規則第一九条参照)、これの二割五分の率で計算した金額が原告らの請求しうべき本給についての割増賃金額であるというべきである。

もつとも、現実の賃金支給額が金八、〇〇〇円に増減あることは前記第一、二、の認定のとおりであるけれども、増額の場合については、前記第二、二、(四)の説示のとおりの本件労働契約の範囲外の労働に対し同第一、二、(一)、(2)の認定のとおり一日につき金三〇〇円を支給する旨の特約が存することに基くものである。減額の場合については、前記第一、二、後段の判断のとおり減額するについての基準金額についての立証がない。したがつて、現実の支給金額に増減あるからといつて右金八、〇〇〇円を基準とすることを妨げる理由とはならない。

してみると、原告らの被告会社に対し請求しうべき本給についての割増賃金額は、

(1) 時間外労働に対する割増賃金額については金八、〇〇〇円を所定労働時間数一二〇時間で除した別表(三)「本給の時間単位の賃金額」欄記載の金六六円に前記第二、三、(三)の認定のとおりの同表「時間外労働時間数」欄記載の時間数を乗じた計算額の二割五分の率で計算した金額(この場合の割増賃金は当然に通常の労働時間に対する賃金相当額の支払いを前提とするものであるから、右金額は右計算額の一・二五倍を意味する)である同表「時間外労働割増賃金額」欄記載の金額のうち右側記載の金額となる。

(2) 深夜労働に対する割増賃金額は右六六円に別表(三)「深夜労働時間数」欄記載の時間数(同表においては(7時間×勤務日数)で時間外かつ深夜労働の時間数を示すものであることは前記第二、三、(三)で説示したとおりである。したがつて、この場合の割増賃金算定率は五割となる)を乗じた計算額の五割の率で計算した金額(右割註は右金額にも妥当する。そこで、右金額を数式で現わすと、〔66×「深夜労働時間数」欄記載の時間数×(1.25+0.25)〕となる)である同表「深夜労働割増賃金額」欄記載の金額のうち右側記載の金額となる。

(二)  原告らの歩合給は前記第一、二、(一)、(3)の認定のごとく一ケ月の総水揚高の二割相当額であるから、出来高払制の賃金というべく、したがつてその賃金算定期間において出来高払制によつて計算された賃金の総額である別表(三)「歩合給月額」欄記載の金額(被告会社は右金額が割増賃金の支給としてなされた旨主張するところ、右主張の理由なきことは後記第三の判断のとおりである)をその賃金算定期間における総労働時間数である同表「勤務時間数(日数)」欄記載の時間数で除した金額である同表「歩合給の時間単位の賃金額」欄記載の金額(労基法施行規則第一九条参照)に前記第二、三、(三)の認定のとおりの時間外、深夜の労働時間数を乗じた計算額の二割五分ないしは五割の率で計算した金額となる。

したがつて、原告らの被告会社に対し請求しうべき歩合給についての割増賃金額は、

(1) 時間外労働割増賃金額については、別表(三)「歩合給の時間単位の賃金額」欄記載の金額に同表「時間外労働時間数」欄記載の時間数を乗じた計算額の二割五分の率で計算した金額(右計算額の二割五分の額)である同表「時間外労働割増賃金額」欄記載の金額のうち左側記載の金額となる。

(2) 深夜労働割増金額については別表(三)「歩合給の時間単位の賃金額」欄記載の金額に同表「深夜労働時間数」欄記載の時間数を乗じた計算額の五割(五割とする理由は右(一)(2)の場合に同じ)の率で計算した金額(右計算額の五割の額)である同表「深夜労働割増賃金額」欄記載の金額のうち左側記載の金額となる。

(三)  そうすると、原告らが被告会社に対して請求しうる割増賃金額は右(一)(二)の認定額の合計額である別表(三)「合計額」欄記載の金額を更に合計した金額となる。

第三、被告の抗弁に対する判断

被告会社は、同会社と原告らとの間の労働契約に際し時間外労働および深夜労働の割増賃金額を精算することに代えて歩合給および皆勤手当名義をもつて支給する金員をもつて割増賃金の支給をする旨約していたものであるから、仮に精算した場合右支給額が精算額に満たなかつたとしても、右満たない部分については原告らにおいて予め放棄していたものである旨主張するけれども、右被告会社が主張するような契約がなされたことを認めるにたる証拠はない。

もつとも、前記乙第一ないし第一一号証(賃金台帳)には「早出残業時間数」、「深夜労働時間数」、「所定時間外割増賃金」、「手当」等表示の欄があつて、右欄にはそれぞれ時間数、金額が記載されており、そして右「所定時間外割増賃金」欄記載の金額は「手当」欄記載の金額の合計額と一致するものとして計算されているもののようであるところ、この点につき証人浜田アイコ、同大坪浩祐、同山南勝己(第一、第二回)は、右「手当」欄記載の金額は歩合給であつて総水揚高の二割に相当し、同時にこの金額は時間外労働および深夜労働に対する割増賃金額でもある旨供述するところであるが、総水揚高は必ずしも原告らの時間外労働および深夜労働の時間数に応じて増減があるものではなく、乗客の多寡、走行距離等に左右されるものというべきであるから、歩合給が同時に割増賃金を示すものとは解し難く、右乙号証の記載内容、各証人の供述によるも右被告会社主張のごとき契約がなされたことを推認することは困難である。してみると、原告らが予めその割増賃金請求権を放棄したとの右被告会社の主張はその前提を欠き、結局理由なきに帰する。よつて、右被告会社の主張は採用することができない。

次に、被告会社は、原告らは少くとも賃金受領の都度右請求権を放棄していた旨主張するところ、原告らが被告会社に対し明示の放棄の意思表示をなしたとの証拠はない。もつとも、前記乙第一ないし第一一号証中、「領収者印」欄に原告らの印顆の印影が押捺されていること、原告らが賃金受領の際被告会社に対し割増賃金の支給なきことについて異議を唱えなかつたものであることは、前記原告らの各本人尋問の結果中原告らにおいてこれを自認するところであるけれども、右事実をもつて直ちに原告らが割増賃金請求権を放棄する意思表示をなしたものと推認することは難しいものと云わなければならない。かえつて前記甲第一号証の一ないし九、証人浜田アイコの証言、原告らの各本人尋問の結果によれば、原告らは自ら被告会社に赴いて賃金を受領する煩を避け被告会社配車係員に平素から印鑑を預けて置き、右配車係員をして賃金台帳(乙第一ないし第一一号証)の「領収者印」欄に原告らの印鑑を押捺せしめて賃金の受領をなしていたに止まり、したがつてまた原告らにとつては右賃金台帳の記載内容は明らかでなかつたものであり、そして原告らが賃金の支給を受ける際交付される給料支払明細書にも時間外および深夜労働に対する割増賃金を表示すべき記載もなかつたことが認められ、右事実によれば賃金台帳に原告らの印鑑の印影が顕出されていること、原告らが異議を唱えなかつたことをもつて割増賃金請求権の放棄の意思表示を意味するものとは到底認め難いところである。よつて、右被告会社の主張も採用に値しない。

第四、結論

以上のとおりであつて、原告らは被告会社に対しそれぞれ別表(三)「合計額」欄記載の金額の合計額につき割増賃金請求権を有するものというべきであるから、原告高橋義教、同森崎加来雄の請求はすべて理由があるので正当としてこれを認容し、その余の原告らの請求は右認定の限度において理由があるので正当としてこれを認容することとし、その余の請求は失当として棄却すべきである。よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 森永龍彦 大西リヨ子 清水利亮)

(別表省略)

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